私向けリクエストアワー

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『チェッカーズの音楽とその時代』に関する感想

先日(2019年3月29日)、スージー鈴木さんによる『チェッカーズの音楽とその時代』が出版されました。この日付のちょうど35年前が『ザ・ベストテン』でチェッカーズが初めて一位を獲得した日であり…といった文章で始まるチェッカーズに関するほとんど初めての音楽評論本。

35年とかよくわからん、いたいけな新規ファンの私が思ったことを書きます。明らかにネタバレがありますので未読の方はご注意を!まだ読んでないチェッカーズ好きな方、おすすめですので是非!

 

 

私的にこの本の読んでよかったポイントは以下の4点でした。

  1. 音楽評論本でありながら、いちリスナーとしての感覚が盛り込まれている
  2. 曲出し、レコーディング、演奏法に関するユージさん・マサハルさんのインタビューが収録されている
  3. あえてシングル曲だけに絞って語られている
  4. スージーさんの文章の巧みさ
音楽評論本でありながら、いちリスナーとしての感覚が盛り込まれている

スージーさんの超個人的ともいえるチェッカーズに関するエピソードが、私の当初の想像の70倍ぐらい多く書かれていてとても興味深かったです。

音楽評論本は当時の音楽の流であったり当時の社会状況であったり、かなり大枠で話を進めていく手法の方が一般的な中、「パーソナルヒストリーの中にチェッカーズを位置づけるという少々差し出がましい手法を用い」*1て書かれたことには大きな意義があると思います。

チェッカーズは立派なロックンロールバンドかつメディアにおける時代のアイコンでもあったと同時にありのままの青年達でもあったんですよね(たぶん)。その華々しさや格好良さに憧れた人も、次第に音楽も振る舞いも大人っぽくなっていく彼らに自分自身の人生を重ねた人もたくさんいたのだろうと思います。チェッカーズは手の届かないスターじゃなくてなんとなく人生の戦友みたいな存在になってくれそうなフレンドリーな雰囲気がありますよね。そういう彼らの魅力が、スージーさんのエピソードから垣間見れて面白かったです 。後代の世代からすると「80年代」は勢いがあって本当に良かったよねぇといった懐古主義的文脈で語られているがゆえに現実味がない節があるのですが、本作はきちんと生活感ある出来事の中にチェッカーズの存在が捉えられて、あチェッカーズって本当にいたんだって思いました。当たり前だけど。

もちろん、しっかりとした音楽的な解説も書かれていて、マニアな方でも読みごたえある内容だと思います。スージーさんはこの本に関して「音楽的に徹底評論」*2と語っておられたのですが、私は頭のカタい評論というよりはより私的なチェッカーズ像の再構築であり、当時を知る人ならではの''私の/僕のチェッカーズ''だと感じました。厳密にいうとスージーさんとチェッカーズという語り口だという方が正しいかな。

いちリスナーとしての視点と音楽評論家としての視点が絶妙に混ぜられているところが非常に読みやすいポイントでもありさすがプロだなぁと唸るポイント。だからとても読みやすく、あ~流行ったよね好きだったわ~的なライト層にも響く内容だと思います。

あと各シングルの売り上げ枚数と順位もデータとして非常に興味深かったです。私は作品自体の良し悪しを測る指標として枚数を用いるのはあまり好きではないですが、客観的に(経済的に)存在感を測る指標としては便利ではあると感じました。

とにかく、チェッカーズの存在が時代やら芸能史やらの大枠における一大ムーブメントとしてではなく当時を共に過ごした人の手によってより近しい存在として語られたこと、それが形に残る書籍として流通したことが本当に素晴らしいことだと思います。スージーさんに感謝。

曲出し、レコーディング、演奏法に関するユージさん・マサハルさんのインタビューが収録されている

なんというか、よくぞ聞いてくださった!っていう気持ちになるパートでした。解散後はチェッカーズに関するインタビュー、しかも曲作りやサウンド面に関しての話なんて本当にきちんと機会をつくらないとできなかったと思うのですが今回の出版にあたり実現したことをとても嬉しく思います。

個人的にはマサハルさんとユージさんの、メディアでの語りぶりがいい意味で変わってなくてめっちゃチェッカーズやん…って思いました笑。

マサハルさんが影響受けた音楽についてあんなにまじめに語ってるの初めて読んだかもしれない。チェッカーズのころはとにかく面白い人でインタビューでもジョークのぶち込み加減がなかなかだったので少々はぐらかされてるな…と感じていましたが笑、結構色んなことを語ってくださっていて読みごたえがありました。マサハルさんっておしゃべりだよね笑

ユージさんは、ミニサミという素晴らしき内輪な場だと本当に飾らない率直な方だなあという印象を受けたのですが、メディアの前だとすごくしっかりとみんなの状況を見つめた言い方ができる人なんだなあと改めて感じました。スージーさんは本書でしきりにクロベエのドラムとユージさんのベースをほめていらっしゃって、それゆえに影響を受けたベースプレイなども細かく聞いてくださっていてうれしかったです。ユージさん推せるよなあわかるぅ…

ユージさんのインタビューの中で具体的にどうやってアレンジを決めていったのかについて細かく語られていたのが最も印象的でした。スージーさんの解説も併せて読むとより立体的に各曲を再構築できるかもしれないですね。スージーさんの解説は割とはっきり好き嫌いと各曲の完成度的なことについて記述されていたので見方を広げるきっかけにはなると思います。

私自身、曲のクオリティが高い/高くないを判断するほどの知識量と判断力が無いですしそもそも良曲かどうかは好みの問題だと思っているので、解説が正しいかどうかに関してはなんとも言えない部分はあるのですが…ひとつ言えるのはチェッカーズのシングル曲って試行錯誤の物語だなあということ。

この本に収められているマサハルさん・ユージさんのインタビューを読む限り、チェッカーズには音楽を作ることに対しての''天才''がいなかったのではないか、と思います。(ここでの天才は小室哲哉さんみたいな、とにかくプロデューサーとして自分で全部レールがひけて主導権を取れる人という意味。)

チェッカーズはおそらく7人全員が手探りで何かしらをやろうともがいていた、だからこそ色々な曲が生まれたんじゃないかと。彼らの楽曲のバラエティの豊かさはその試行錯誤の足跡。音楽にとても詳しい人からしたらその試行錯誤の結果の作品群を物足りないと感じることもあるのかもしれませんが(インタビューを読む限り基本自分たちはまだまだ…だと一番思っていたのはメンバーだったと思う)それがまた格好良いと思います。明らかに得意なジャンルもあったのにそこにとどまろうとしなかったチェッカーズの成長性が素晴らしい楽曲とステージを実現させたのでしょうね。

本書を読んで改めてシングルを時系列で聞いてみると本当に、なんかよくわからないバンドだなあと笑。後半なんて夜明けブレスみたいなスタンダードバラードもあれば運命みたいな前衛的な曲もあるしチェッカーズってどんなバンド?って聞かれてもいやーなんでもありよね、あの7人でやってさえいれば全部チェッカーズよね…としか答えられないですよね。

 

あえてシングル曲だけに絞って語られている

8thのOOPS!と9thの I HAVE A DREAMはシングル曲が全く収録されていないわけで、チェッカーズの音楽世界の中心はアルバムでありツアーだったと考えてる身からするとシングルだけ切り取って語るのって相当チャレンジャーだなあーて思ったのが本音ですが笑。その時代というサブタイトルからして時代に対してーファンでない一般層に対してのプロモーションもかねてリリースされていたシングル曲を中心に語られるのはしかるべきだとも思います。

あえてシングルだけに絞って、というのはほぼ私の憶測ですが、チェッカーズってほとんど語られてこなかったから語るべきことが山ほどあるんだと思います。今回は一番イージーなとっかかりとしてシングルに絞られたんじゃないかと。ライトなファンも含めて読みやすい構成になった利点はもちろんのこと、シングルだけで一冊にできるというチェッカーズの意外な?奥深さが体現されたのは本当に素晴らしいと思います。

スージーさんの文章の巧みさ

正直スージーさんって野球好きな人!ってイメージだったので(昔週刊ベースボールのコラム読んでたなあ…)音楽方面ではあまり存じ上げなかったのですが、ユーモアにあふれている人だなあという印象を受けました。本当に面白いし読みやすい。

 

というわけで、いい本でした。ぶっちゃけ活字離れもいいとこの私、書店で新発売の本を買うなんて何年振りだろうというレベルでしたが買ってよかったです。スージーさん絶対ユージさん推しだから一緒に語りたいと思ったのが一番。

 

ここからは蛇足といえば蛇足なのですが…書きたいことは書いておこうかと思って(私向けリクエストアワーだからね)書いておきます。

チェッカーズのポップさを実現させたのは誰だったのか?

私がインタビュー集でとても驚いた21stシングル『Friends and Dream』についてのお話ー

フミヤ「Aメロやったっけ、あれ、もともと」

マサハル「そうそう」

フミヤ「サビのメロディから入るでしょ。あれがAメロだったの。で、どうしてもそれをサビにしてくれって。俺が政治に頼んだわけ。で、’’うん分かった’’ってわかったような顔しながら、作り直してきたときにまたサビになってなかったわけ(笑)それで、いやこれは絶対にサビだって言って」

モク「じゃけん、俺たちは初めて聞いてそう思うやない。マサハルはつくりよってそうじゃないわけ。やっぱり」

THE CHECKERS PATi▷PATi FILE 1987-1989 694ページ

この発言、なかなか衝撃でした。全く曲を知らない人でも一聞きでわかりそうなサビのメロディをAメロにぶち込んでいたというマサハルさんの音楽的センス、ある意味天才的だと思います。

スージーさんの本ではマサハルさんの曲は王道JーPOPに通じるキャッチ―なポップ性が「けれん味の無さ」*3等の表現で語られていて、私も多いに納得しました。無駄に付け加えておくと、その魅力を実現させたのはマサハルさんの素晴らしき才能だけでなくメンバー同士の助言もあったからだと思います。ここら辺、中々聞けないことではあるので検証しづらい部分ではあるのですが…。あとチェッカーズにはアレンジの鬼(と勝手に私があがめている)武内享さんがいるからね…そこまで話聞いたら相当分量も増えるだろうし面白いのではと思います。個々の才能は本当にすごいのですがそれを対等に高めあう関係にあったことが完成度を高められた要因だったんだろうな。

再結成の扱いについて

チェッカーズって異常なぐらい再結成の話題を出されてるじゃないですか笑。もはや笑えるぐらい。この本でも複数回その話題がでていていて、なんとなくそういう愛情もあるんだなあって思いました。

個人的なことを書くと私は解散後に生まれたので、チェッカーズはその存在を知った最初の瞬間から''既に完結していたバンド''なんですよね。残念ながら彼らと同じ時間を共有できなかったし一緒に未来を夢見なかった私にとって、チェッカーズは存在自体が作品という印象があるかと思います。(だから解散って最終回みたいな、悲しいといえば悲しいけれどちゃんと終われて良かったね!という気持ちが強いです。そしてあの幕引き・完結方法はとても格好良いと思っています。)そういう意味では大好きだけど少し距離があるのかもしれません。

きっとリアルタイムでチェッカーズを見て体験した人ー''私の/僕のチェッカーズ''を語れる人からしたら、同じ大切な時を過ごした戦友みたいな彼らが活動状態にあるバンドとして存在していないことが哀しくて本当に惜しいと思うだろうし、再結成を~って考えちゃうかもしれない。そういう気持ちも分からないでもないし未だにそういう話題がでること自体チェッカーズの絶大な人気を物語っていると思います。多くの人にとっての''私の/僕のチェッカーズ''は一度たりとも失われていない、愛すべき存在であり続けているのだろうと感じます。

 

でも、まあ私が言うことでもないんですけど笑、音楽って永遠に終わりがないコンテンツなわけで再生デバイスは変化していくだろうけど作品自体は好きっていう人がいる限りずーーーっと残っていくものだと思うんですよね。チェッカーズも解散したし完結しているけど別に消えたわけじゃない。ずっと残っているからこそ私みたいな世代にも響いているのです。前レインボーの感想にチェッカーズは好きっていう人がいる限り現役のバンドだって書いたのですがまあそういことですよね笑(急に雑なまとめ方)

活動してる/してないとか解散してる/再結成するとかはそんな気にすることでもないんじゃない?って私は思っています。そんなことどーでもいいくらい楽しいコンテンツがチェッカーズにはたくさんあるよ!ってことはきちんと書いておきたい。

 

チェッカーズの音楽とその時代

チェッカーズの音楽とその時代

 

 

 

まーーーた長文書いてしまった…これぐらいの勢いで課題レポートもESも書ければなあと思う春の夜。

*1:本書4ページ

*2:2019年3月24日のツイートより

*3:本書142ページ